株式を分割すると株が上がることが多い。でも、とても不思議な現象だ。
原理的には
時価総額 = 株価 × 発行済株数
なので、永続的な企業の時価総額が一夜で変わることは考えにくいから、株式分割によって株数が例えば2倍に増えたら、理論的には株価は1/2に収斂するはずだ。でも、実際には株式分割を発表すると株価が急騰する例が後を絶たない。
その理由として通説では
- 株式分割をすると株価が低くなって(小口)投資家が買いやすくなるため、需要が底上げされて株価が上がる。
- 株主分割の基準日(新株を割り当てる株主を確定する日)から、実際に新株券が株主の手元に届く効力発生日までタイムラグがあり、売れる株が品薄となって株価が乱高下する。
というような説明がしばしばなされる。でも本当だろうか? ちょっと検証してみよう。
ネット証券評議会のデータによると、2006年12月のネット証券市場は下記のようになっている。
- 口座数: 3,324,675口座
- 預り資産額: 8,374,097百万円
上記から、ネット証券の1口座あたり平均的な預り資産額は約250万円という数字をはじくことが出来る。この数字を多いと感じるだろうか、少ないと感じるだろうか? おそらく口座はあるものの残高がなくほとんど使われてもいない口座も相当数あるだろうから、そうした「休眠口座」の割合をエイヤで3割とすると、実稼動口座の平均資産は約375万円となる。結構な金額だと思う。
これだけの残高が証券口座にあるとして、皆さんはこれを何銘柄の株式に振り分けるだろうか? ぜーんぶ1銘柄に集中投資するという豪傑もいらっしゃるだろうし、10銘柄に分散投資すると言う慎重派もいらっしゃるだろう。詳しいデータがないので、またまたエイヤでネット証券における平均的な取引の金額を50万円~100万円ぐらいとし、これを「スウィートスポット」と呼ぶことにしよう。
平均的にこのくらいの金額の取引が主流であるとして、株式分割が上記のスウィートスポットにヒットするのはどのような場合だろうか。例えば株価200万円ぐらいの銘柄の株式を1:2や1:3ぐらいで分割する場合等がそうだろう。このようにスウィートスポットにぶつかるような分割を行うと、平均的な金額の取引を行う人たちの帯域に入ってくるので、これまでその銘柄を買うことが出来なかった人たちにも買うチャンスが出来るという意味で裾野が広がるのもわかる気がする。でも、スウィートスポットをはずせば大勢に影響はなさそうな気がする。
上記の2番目の理由についてはよくわからない。実際の株券が届いていようがいまいが、株式分割の効力が発生する時点で株式を持っている人は株式を売却できるはず(でなければ取引は成立しないはず)であり、これが正しいとすれば上記仮説のように売却できる株が少ないという理由になっていない。
個人的にはこの部分は「過去の株式分割では株価が上がる例が多かったので、株式分割=ほぼ確実に株価が上がる、と考える人が多く、売り物が極端に少ない」状況なのではないかと考えている。
ちなみに、本日の日経新聞に三菱UFJフィナンシャルグループ(株価150万円)が1:10の株式分割を行うと報じていたが、場が開く前に三菱UFJがこれを否定するコメントを出しており、株価はほとんど影響なかったという。もしこの報道が本当だったら、本当に株価は動いたであろうか? 今回の場合には結果的に日経新聞の誤報ということのようで実際には株価はほとんど変わらず、冷静な人が多かったと言うことのようだ。
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