日本と欧米のベンチャー業界にはいろいろと考え方の違いがあるのだが、その一つに「累損」がある。日本のベンチャー関係者の間では、累損に対するイメージは海外以上に悪いような感じがする。
「累損(累積損失)」は、損失が何年か続いた会社において、それら損失が積み上がったものとして貸借対照表の資本の部の一番下あたりに出てくる数字のこと。黒字続きの会社は黒字が剰余金としてたまり、貸借対照表の「資本の部」は「資本金(含む資本準備金)」より大きくなるわけだが、赤字続きとなるとこの剰余金がどんどん減り、ついにはマイナスとなりその結果「資本の部」は「資本金(含む資本準備金)」よりも小さくなる。積み上がった損失によって資本金が棄損しているわけだ。会計学的に言えば、株主が出資した資本金が目減りしている状態だ。
創業まもないベンチャー、それも研究開発型のベンチャーにおいては、本格的な売上が実現されるよりも前に研究開発に注力する期間が長いことが多く、当然のように累損が発生する。そうした損失はもちろん少ないほうがいいわけだが、そうした研究開発活動は未来の大きな売上をもたらすものとして必要なものであり、累損が発生すること自体はやむを得ないものだと考えられる。
一方、初年度から売上を上げて黒字を積み上げていくタイプの会社もある。研究開発活動を伴わないサービス型のベンチャーに顕著だ。こうしたベンチャーの場合にはそれほど大きな設備投資や研究開発投資を行わずに事業を行うことが多い。累損もそれ程大きくないことが多い気がする。
欧米ではベンチャー企業と言えば前者の研究開発型のベンチャーが多く、一方の日本では比較的サービス型に近いベンチャーが多いような感じがしており、そのあたりが累損に対するベンチャー関係者の考え方の彼我の違いになっていそうだ。
考え方が違うこと自体は問題ないが、この考え方の違いが日本における研究開発型ベンチャーへの逆風をもたらす背景の一つになるとしたら問題だ。研究開発型、サービス型といった事業特性の違いを考慮せず、一律に「累損は悪」としていないだろうか。サービス型のベンチャーに対して「累損は要注意」とする投資関係者や金融関係者は少なくないような気がするが、研究開発型のベンチャーに対しても同じ基準で「累損は要注意」としていないだろうか?
もちろん赤字は少ないほうがいいし、累損も少ないほうがいい。しかし、大きなビジネスをしようと思ったらある程度の投資が必要。要は現在までの累損と将来の利益のバランスの問題で、それらを総合的に考えないと、「累損は悪」とは言えないはずだ。
ベンチャー関係者たるもの、短期的な財務諸表にとらわれず大きな視点で考えたいものだ。
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