米国では2001年のエンロン事件や2002年のワールドコム破綻など、不正会計処理に伴う大規模な経営破綻が起きたことによりSOX法が導入され、多くの企業が監査コストの増大に苦しんできた。米国のベンチャーの中には、米国での株式公開をあきらめてLondonのAIM市場その他の新興市場での株式公開を目指す企業が相次いだ時期もあった。
日本でも内部統制、J-SOX、個人上情報保護法などにより多くの企業でコンプライアンスの強化が叫ばれており、業務がやりにくくなってきていると感じている諸氏もいらっしゃることだろう。
そもそも「会社」とは何で、「会社」は何を行うべきか、何を行うべきではないのか、そうした価値観が揺らいでいるのだと感じている。そうしたことに疑問の方には、久保利英明氏による「株式会社の原点」のご一読をお勧めしたい。
久保利英明氏は日本を代表するコーポレートガバナンスや企業のリスクマネジメントの辣腕弁護士で、しばしばテレビにも登場しているのでご存知の方も多いはずだ。「株式会社の原点」では、企業不祥事と内部統制、会社法などについて豊富な実例を元に何が問題なのかがわかりやすく解説されている。会社の経営に携わる方には是非読んで頂きたい。
私が最も心に残った部分をご紹介させて頂きたい。
(以下、引用)
「良い会社」たらんとするために、経営者が確保すべき行動原理の一端を世界的製造メーカーであるジョンソン&ジョンソンの「我が信条」に見ることができる。その宣言の概要は、以下のごとくである。
「われわれの第一の責任は、我々の製品およびサービスを使用してくれる医師、看護師、患者、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客に対するものであると確信する」と会社の使命を強調する。
次に、「我々の第二の責任は全社員---世界中でともに働く男性も女性も---に対するものである。社員一人一人は個人として尊重され、その尊厳と価値が認められなければならない。待遇は公正かつ適切でなければならず、働く環境は清潔で、整理整頓され、かつ安全でなければならない。社員が家族に対する責任を十分果たすことができるよう、配慮しなければならない」と社員の雇用と労働環境を掲げている。
さらに、「我々の第三の責任は、我々が生活し、働いている地域社会、更には全世界の共同社会に対するものである。我々は良き市民として、有益な社会事業および福祉に貢献し、適切な租税を負担しなければならない。我々は社会の発展、健康の増進、教育の改善に寄与する活動に参画しなければならない。我々が使用する施設を常に良好な状態に保ち、環境と資源の保護に努めなければならない」
とした上で、会社の株主に対する責任には最後に触れるのである。しかも、
「事業は適切な利益を生まなければならない。我々は新しい考えを試みなければならない。研究・開発は継続され、革新的な企画は開発され、失敗は償わなければならない。新しい設備を購入し、新しい施設を整備し、新しい製品を市場に導入しなければならない。逆境のときに備えて蓄積を行わなければならない」
などと必要な経費や内部留保を確保した上で、はじめて、
「株主は正当な報酬を教授することができるものと確信する」と株主は最も後回しにされるのである。
(以下、省略)
「株主の利益」は最後にくる。欧米流の株式会社では、株主の価値が唯一絶対のように取り扱われているような印象があったが、上記のように世界市民として「良き会社」であることを唱えた文章は実に清清しい。事業を営む過程で何かの課題に直面したときにどう対処すべきか悩むことは多い。そうした局面で、このような行動規範がしっかりしている企業はきっと強いはずだ。見習いたいものだ。
私は個人でベンチャー投資しているキャピタリストです。
とても勉強になりました。
また訪問します。
ありがとうございました。
投稿情報: 田中 | 2008年4 月22日 (火) 22:22