日本の証券税制には「有利発行」という概念がある。時価よりも安い価格で株式を取得したら、時価よりも安い分を利益とみなして税金を徴収するという考え方だ。でも、何かおかしくないか。
有利発行は上場・未上場を問わず行われることがある。たとえばこんな具合だ。
三菱自動車の場合、、、、1株100円程度という、時価(8日終値201円)の半額以下で発行し、、、、
有利発行を行う背景にはリコール(回収、無償交換)問題などが相次ぎ、三菱自動車としては「市場から時価で資金を集めることが困難」(広報部)という差し迫った事情がある。
再建企業について有利発行が行われやすいのは「万一、企業が倒産すれば株価はゼロ。企業が再生することが既存株主の利益にもなる」(高田明・野村証券IBコンサルティング部長)ためだ。
そもそも、時価より低い価格で株を発行したり取引したりというのは無茶な話だ。しかし、上記の例のように会社が危うい状況にあるなど普通の条件では株を買ってくれる人がなく、価格を下げてでも株を買ってもらった方がいい場合に起こりえる(そういう事情なしに、むやみに低い価格で株を発行したり売買されるのは問題なので、取締役会や株主総会の決議で厳しく制限されるべきではある)。
ベンチャー企業の場合も同じで、事業が難航して資金が底をついた時などに株価を下げて資金調達する場合等がある。いわゆるダウン・ラウンドだ。この場合、「時価」をどのように設定するかが問われることとなるが、有利発行と判定されると株を買った人は税金を払わなければならなくなる。
なぜ税金を徴収するかといえば、既存の株主から新株主へ経済的な利益の移転があったと見なされるためらしい。こんな具合だ。
いま10,000株を発行している会社があり、この1株の時価が3,000円の時に、新たに外部の者に1株1,000円で10,000株を有利発行したとすると、発行後の1株の価格は次のようになります。
(10,000株×3,000円+10,000株×1,000円)÷(10,000株+10,000株)=2,000円
そうすると既存の株主にとっては3,000円の株価が2,000円になってしまい、その反対に新株主は1,000円の払い込みで2,000円の価値の株式を手に入れたことになります。
そんな訳で、有利な価格で株を「買った」人から税金を取るという制度になっているわけだ。でもちょっと待って欲しい。これって無茶な話ではないか?
株というものは価格が変動するものだ。上場株も未上場株も株価は変動する。たとえ安い価格で株を買ったとしても、株を売るまでに株価が下がるかもしれず、だから利益は売るまで確定しない。たとえ相場よりも安く株を買ったとしても、株を買った時点では何ら利益は「実現」していない。上記の例で言えば、たとえ株価1,000円で株を買っても、その後株価が500円まで下がるかもしれない。それにもかかわらず税金を払えと言う。実現していない利益に対して税金を払えとはどういうことか。
不動産に例えると、近隣の相場よりも安い掘り出し物の不動産を買ったら、近隣相場との差額について税金を払いなさい、と言っているのと同じだ。その不動産をいつ売るかわからないし、売るときにいくらで売れるかもわからない。「安値での取得はけしからんから税金を払え」と言っているようにも聞こえる。資本主義の国にあって、こういう発想はいかがなものか?
投資家としては、ベンチャー企業の株価を不用意に上げるわけに行かない。不用意に株価を上げ、その後ベンチャーの事業が難航して資金が底をつき、低い株価で資金調達しなければならなくなっとしたらどうなるか。低い株価でベンチャー企業を支援した投資家は「有利発行」の税金を払わなければならないリスクを背負うこととなる。投資家はそんな話は怖くて乗れない。だから、投資家はコンサバな(つまり安めの)株価設定を好む。これはベンチャー企業にとってはつらいところだろう。有利発行の税制が、適正な株価形成を邪魔していることになりはしないか。
先にも書いたが有利発行を認めるかどうかは当事者である株主や投資家が納得の上で決めればいいことで、その意味で株式投資にかかわる人は希薄化などの概念を一般常識として身に付けるべきだ。しかし、それと税金は別問題。何かおかしい気がするのは私だけだろうか。
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