もう2ヶ月近くもご無沙汰してしまったが、久しぶりにVC投資論を復活してみたい。今回は日本と海外(特にアメリカ)のVC環境の違いについて書いてみたいと思う。このブログの中でもしばしば取り扱ってきたテーマだが、今日はこれを総括してみたいと思う。
参考: 関連する過去のエントリー
日米のVCを取り巻く状況を比較すると下記のように整理できる。話を単純にするため、ステレオタイプ的に大胆に簡素化しているので、これにそぐわない例も多々あることをご承知の上で見て頂きたい。
日本 |
アメリカ | |
VBのスコープの大きさ |
日本市場のみを対象 |
世界市場を対象 |
VBの志向 |
どちらかと言えば安全志向(失敗するわけにいかに) |
成長志向(失敗してもまた始めればいい) |
VBの財務的な特徴 |
成長率よりも黒字化重視 |
黒字化よりも成長率重視 |
一般的な資本金のレベル |
数千万円~数億円程度 |
数千万円~数十億円 |
創業者の持株比率 |
概ね過半数を維持 |
しばしば20%以下 |
VCの持株比率 |
20~30%以下を好む |
80%ぐらいまで |
経営権 |
創業者支配 |
VC支配 |
出口手法 |
多くの場合IPO |
M&A主流(8割)。IPOの場合はブロックトレードによってVC持分を売却。 |
IPO時の平均バリュエーション |
50~100億円ぐらい(日本は公開しやすい!) |
平均300億円ぐらい |
融資、保証 |
開発資金に活用する場合も多い。経営者の個人保証多し。 |
通常は融資を受けない。レーターステージにおいて運転資金に使うのみ。 |
公開された投資情報 |
ほとんど未整備 |
第三者的な情報機関あり(Venture Source, Thomson等) |
出口における特有の事情 |
引受証券会社、上場市場の裁量権が強い |
M&Aを仲介する投資銀行の裁量権が強い |
ファイナンス手法 |
主に普通株による調達 |
主に優先株、転換社債による調達 |
シンジケーション |
リード役が明確でないこともしばしば |
リード役が明確。必ずタームシートを作成。 |
こうして見ると、実に多くの点が相違している。大雑把に言うと、日本の方がコンサバで安全志向だが失敗も少ない感じ、対するアメリカはダイナミックに挑戦し駄目ならさっさと次に行く、というように感じている。
どちらが良いとか悪いとかいった議論はあまり意味がなかろう。日米それぞれの市場環境においてVBもVCもそれぞれのやり方で活動し、成功事例を作り、収益を上げてきたということが重要だ。上記の相違点は、それぞれの市場環境の違いやプレーヤーの違いを背景に生じてきたものだと理解している。
ただ、日本の今後を考えたときいくつか気になる点がある。
- 少子高齢化により今後日本の経済規模は安定から縮小に向かうかもしれない。
- 世界における日本の注目度は低下の一途。アメリカ人の間で中国やインドは盛んに話題に上るが、日本が話題になることは少ない。
世界に名を馳せた日本の大企業は今後もその地位を維持していけると思うが、足元を見れば「ものづくり日本」の後を中国やインドが迫ってきており、相対的な地位低下が避けられなかろう。国力を維持するためにはどうしても新しい産業を作る必要があると思う。
かつて日本からソニーやホンダが生まれたように、新しい産業を作る上でベンチャーはとても重要な存在だと考えている。世界に通用するベンチャーを作ろうという強い意志と、それを支える環境が必要だろう。80年代に不況を経験したアメリカでは、大学が中心になってベンチャーの卵を生み、これにVCが出資することで大きく育ててきた。決して平坦な道のりではなかったはずだ。
今まで日本企業の強みは「長期的」な視点や考え方であったはずだ。今後の日本に必要なのは困難があろうとも大きな目標にチャレンジし、「長期的」な成功を勝ち取ることだと考えている。
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