最近の世界同時株価下落の発端となった米国のサブプライム問題は、VC業界にどのような影響を与えるであろうか?
最近、シリコンバレーのキャピタリストKeith Benjamin氏のエントリーがNYtimes誌や他のメディアに取り上げられて話題になっている。彼のエントリーを紹介させて頂こう。
I believe the current credit crunch can actually help venture returns. Why? Because it will help build momentum for the technology IPO market, which is what really drives venture returns. Investors have finally demonstrated a willingness to buy technology IPOs.
Benjamin氏は最近のクレジット・クランチによって投資資金がテクノロジーベンチャーのIPOに流れていると見ている。実際、最近の大型IPOであるVMwareのケースでは、8月14日に$29でIPOし、8月23日には$70.20まで上昇した。IPO市場の少なくとも一部は盛り上がっていると言えそうだ。(関連エントリー)
Why do tech stocks now look better? Because alternative investments don't look as attractive. Investors shied away from tech stocks for years, fearing the post-bubble risks. Leveraged investing strategies were perceived as less risky. For the last five years, I’ve watched the skyrocketing returns from hedge funds and buyout funds with jealousy, wondering if I was missing something. I believe we have just witnessed a sharp shift in perception of the risk for those leveraged investing strategies
... I have assumed that much of the returns from hedge funds and buyout funds have often simply been a function of magnifying small fundamental returns with significant leverage.
彼の解釈によると、テクノロジー株が好調なのは「オルタナティブ投資」の魅力が薄れたからだという。2000年のバブル崩壊後、投資家達はテクノロジー株を敬遠し、代わってリスクの少ないものにシフトしてきた。そうしてバイアウトやヘッジファンドに資金が流れていくわけだが、実際のところヘッジファンドやバイアウトファンドは大きなリターンをあげていたようだ。
ヘッジファンドやバイアウトファンドが大きなリターンを上げることが出来たのは、レバレッジを多用したからだと彼は見ている。
例えば、投資元本100に対して10の利益を上げる投資機会があったとしよう。単純に計算すれば、この投資利益率はプラス10%となる。
同じ投資機会に対して、投資元本10、借入90の資金を投下したらどうなるだろうか。借入にかかるコストを無視すれば、投資元本10で投資利益10を上げることが出来るので、投資利益率はプラス100%となる。借入を併用しない場合に比べてリターンが10倍になったわけだ。これがレバレッジの効果だ。ヘッジファンドやバイアウトはこのようなレバレッジを多用したことで儲けてきたと彼は見ている。
この投資が失敗して、投資利益10を得られるつもりが損失10になってしまった場合、レバレッジがかかっていると大変だ。先の例で言えば、投資元本の10がすべて吹き飛ぶことを意味する。
Of course, there are some great managers in each class who deliver strong fundamental returns, but that seems to have been the exception. Less credit and/or more expensive credit will hurt these asset classes.
不確定要因が少ない場合にはレバレッジを多用することで高い利益を上げることが出来るが、不確定要因が増えてくると行き過ぎたレバレッジが如何に危険か想像できよう。最近のジレジット・クランチにはそんな背景があったのだという。
それに対して、テクノロジー株はレバレッジとは無縁だ。
Fortunately, venture is not dependent on credit. I do not see a sustained credit panic and public market meltdown. I believe the financial markets will recover, albeit with tighter credit. The current environment could prove ideal for venture returns. My key assumption is that technology IPOs become more attractive as public market investors look for investment returns from growth, not leverage.
結論として、レバレッジを多用したいわゆるデリバティブ的な投資よりも、ファンダメンタルの好調な現物株に投資するいわゆるグロース投資の方が結局はリスクが少ないとしている。
この彼の議論に対して、NYtimesのMATT RICHTELはニュートラルな立場ながらいつくか懸念を表明している。
- 機関投資家はサブプライム問題で損失を出しているので、投資余力が減るだろう。
- VCファンドは「オルタナティブ投資」に分類されるが、このオルタナティブ投資にはサブプライム問題で損失が取りざたされているヘッジファンドも含まれる。機関投資家がオルタナティブ投資への投資に消極的になればVCファンドへの投資も絞り込まれるだろう。
- サブプライム問題によって銀行貸出が引き締められ、資金を借りるのが難しくなろう。ハイテクベンチャーはしばしば大企業による買収によってEXITしているが、この買収資金(の一部)を担う銀行借入がタイトになることで、大企業によるベンチャー買収がやりにくくなるかも知れない。
- サブプライム問題は住宅価格に影響するかもしれないので、ベンチャーで働く従業員の個人資産に悪影響を及ぼすかもしれない。
Benjamin氏の見解もRichtel氏の懸念もそれぞれ一理ありそうだ。
今後の方向性はまだ見えないが、「行き過ぎたものが調整される」のは市場経済の基本原理のようなもの、そうした調整の末に新しい世界が広がることを期待したい。
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