日経新聞等でVCが低リスク志向になったと報じられている。小売・外食など比較的リスクの低い業種への投資が増え、インターネット、IT向け投資が足踏み、創業間もない企業への投資も減少、とある。何となくそうなのだろうと感じてはいたことだ。でも、VCは本当に低リスク志向になったのだろうか。そもそもリスクを取るとはどういうことなのだろうか。
私の個人的な経験だが、ベンチャー企業から投資の話しが持ち込まれたときには、まず判っていることと判っていないことを整理する。このうち、判っていない部分で最悪の結果になったときに、何とか対応して持ちこたえることが出来るかどうか、投資家として支えきれるかどうかを考えて投資の判断をする。この「判っていないこと」、うまくいくか行かないか判断できない不確定なもの、これがリスクだ。VCがリスクを取るとは、不確定なものが待ち構えているのを承知の上で敢えて投資することだ。
VCがベンチャー企業(VB)を見るとき、まずキャッシュを生んでいる会社か生んでいない会社かで対応が分かれる。キャッシュを生んでいるVBは比較的考えやすい。そのVBは既にキャッシュを生む仕組みを持っているわけだから、あとはそのキャッシュを生む仕組みを将来伸ばしていけるかどうかを考えればいい。冒頭の日経新聞の記事で小売・外食への投資が増えているとあるが、そうした業種はキャッシュフローが比較的見えやすく、不確定要因も少ないのだろう。
一方、キャッシュを生んでいないVBは、将来どうやってキャッシュを生むか考えなければならない。典型例は技術開発型のベンチャーで、創業してしばらくは製品開発に注力するので売上がない。その期間は赤字でありキャッシュフローもマイナスだ。投資家として考えなければならないのは、そうしたキャッシュフローのないVBが将来キャッシュを生むことが出来るかどうかだ。製品を開発できるか、製品は市場で売れるか、適正なマージンを確保できるかなどなど、不確定な課題は多い。
日本のVCがそうした不確定なものへ投資を敬遠しているとしたら、その原因として下記のような仮説がありえる。
まず、VC側の視点では、
- VCが判らないものが増えた(何が売れるかわからない)
- VCに力量(=情報力+判断力+資金力+、、)がない、力量が低下している
- VCは判らないものには無理をしなくなった(失敗して痛い目にあった)
環境変化として
- 不確定要素が大きくなっている(何が成功する誰にも判らない)
- VBの成長過程を支える人材がいない、VBに人材が来なくなった(任せられる人がいない)
- 市場が成熟している(運に期待することは出来にくくなった)
- 公開市場が盛り上がりにかける(猫も杓子も公開できた時代は過ぎた)
私の個人的な感覚だが、盛り上がっている時代は(例えばネットバブル時代)、比較的うまく行きやすかったのではないか。多少こなれていない製品やサービスでも買ってくれる市場があった。そうした時代にあっては、よくわからないものにも目をつぶって、エイヤと飛び込むことが出来た。ところが、市場が盛り上がっていないと人はもう少し慎重になる。おそらくはエイヤとやってしまうことも少なくなるだろう。今、日本で起きているのはそういうことなのではないか。
では、VCの先進国アメリカではどうであろうか。アメリカのVCは日本のVCよりも多くのリスクを取るのだろうか。
まず、こういうことが言えるだろう。
- 米国VCの一件当たりの投資金額は大きいので、リスクが顕在化した場合のインパクトは大きい
しかしながら、こんな側面もある。
- アメリカのVCには元々VBや産業界にいた人が多く、キャピタリストがそれら実業界に多くの人脈を持っている。人脈と言うよりも「同僚」と言うべきかもしれない。そうした同僚の間で交わされる「ささやき」により、世界の技術動向がどこに向かっているのか、どの会社は中長期的にどんな分野を研究開発しようとしているか、どの会社がどの会社を買いそうか、かなりのことがわかっている。
アメリカのVCは産業界がどこに進むか目星がついており、その方向に沿ったVBを見つければ成功する可能性も高くなる、つまり不確定要因が少ない、だから他の人には怖くて到底投資できないような分野でも投資することができる、という仮説を立てることが出来そうだ。つまり、アメリカのVCは多くのリスクを取っているわけではない。ただ、彼らの持つ情報の量と質は日系VCに比べたらケタ違いなので、日本の投資家にとってのリスクが彼らにとってのリスクではないのかも知れない、少なくともアメリカが強い産業においてはそういう側面がありそうだ。
日本のVCはどうすればいいだろう。私はアメリカを見習えばいいのではないかと考えている。日本にも強い産業はある。自動車、エレクトロニクス、ワイヤレス、ゲーム、各種サービス、、、等など。そうした産業界と投資家がより緊密に情報をやり取りできるようになれば、リスクがリスクで無くなる可能性が開けるのではないか。
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