VC投資論の第2回目として、VCとは切っても切れない「ファンド」について触れてみたい。ファンドを理解しておくこともVCの思考パターンを理解するうえでは重要だ。
ファンドとは何か。いろいろな説明の仕方がありそうだ。投資信託、投資組合、といった投資の商品を表わすこともあれば、投資を行う共同体のことを意味したりもする。金融庁のホームページではこのように説明されているので流用させてもらおう。
ファンドとは、複数の投資家から資金を集め、その資金を用いて行われる事業・資産からの利益を投資家に分配する仕組みのことです。
非常に単純明快な説明だ。「特定の投資目的のために」多くの投資家から資金を集めて投資し、収益を還元する仕組み、と言い換えさせてもらおう。
多くの場合、VCも「ベンチャー企業に投資する目的」で複数の投資家から資金を集めてファンドをつくり、そのファンドからベンチャー企業に投資を行っている(中にはファンドではなく自己資金で投資するVCもあるのだが<例:英国のスリーアイ等>、そうした自己資金も元を正せば株式市場から調達した資金だったりするので、外部の投資家から資金を調達しているという意味では上記のファンドとそれほど意味合いは違わない)。 VCにとってファンドこそが投資を行うための資金の源泉であり、ファンドの規模がそのままVCのパワーを反映している。投資家の信任を得てファンドを募集出来たVCだけがVC投資事業を行うことが出来るが、ファンドを募集できなければVC投資事業は行えない。これは単純だがVCにとってはとても重い命題だ。
そもそもファンドを取りまとめられる力量がなければVCは始められない。たとえ、首尾よく最初のファンドを苦労の末なんとか立ち上げたとしても、もし、そのファンドの運用成績が悪く、ファンドに出資した投資家から不評を買うと大変だ。最初のファンドが満期を迎える前(すなわちすべての資金を投資家に返還してしまう前)までにVCは新たなファンドを募集して投資資金を確保しなければ事業を継続できないわけだが、最初のファンドの運用成績が思わしくいないと投資家は新しいファンドへの投資に躊躇するものだ。運用成績が極めて悪いVCには誰も見向きもしないだろう。実際、2000年前後のバブル期にファンドを立ち上げたものの、その後のバブル崩壊で運用成績が極端に悪化し、そのファンドが満期を迎えるまでに新たにファンドを募集できずに資金が枯渇して廃業や身売りに追い込まれたVCがファンドの大小、有名無名を問わず存在する。VCファンドへの投資家は年金、保険会社、財団などの機関投資家が多いのだが、こうしたプロの投資家達は基本的にリターンを重視する。誰でも自分の年金基金がうまく運用されて金額が増えたらうれしいが、目減りしたら怒るだろう。だから年金運用者等の機関投資家は基本的にリターンを絶対重視する。そうした投資家達から資金を「預かって」運用している以上、VCファンドも「運用リターン」のプレッシャーにさらされ続けることになる。綺麗ごとでは済まされない金の世界にいるわけだ。
このように、VCには「人から預かった資金を運用している運用者」としての側面があるということを理解することで、後述するVCの思考回路や行動原理の多くを理解できるようになるだろう。
もう一つ、ファンドの大きな性質として、「ファンドには満期がある」ことを挙げねばならない。ファンドの運用者であるVCは、そのファンドの満期までにファンドの資金で投資した株式をすべて現金化して投資家に還元しなければならないのだ。ベンチャー企業の多くが未公開で株式に流動性がないので、この現金化というのはとても難しい問題だ。下手をすると二束三文で売り飛ばさなければならない。この問題を解決するために、欧米諸国や日本では別の方法が取られてきた。そのあたりも次回説明するとしよう。
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