通信業界ではNGN(Next Generation Network)の議論が盛んなようだが、どうも腑に落ちないことがある。NGNは誰のためのものかということだ。
私は通信の専門家ではないので細かなことは判らないが、私の理解で言えばNGNとはこのようなものだと考えている。
- IP(Internet Protocol)通信技術を使って、データ、音声、映像などのあらゆる信号を伝送させるネットワーク。
- 背景として、インターネットや企業内LANの普及によってIP通信機器の価格が劇的に下がったため、新しいネットワークを作ろうと思ったらIP以外の選択肢は考えられない。
- NGNはインターネットに似ているが、通信サービスの品質(≒帯域≒通信速度)を保証するかしないかの本質的な違いがある。前者は「サービス保証型のネットワーク」であるのに対し、後者は「ベストフォートベース、エラーの発生を前提としたネットワーク」である。
IPネットワークの構成要素の中に「親」はいない。分散システムとして設計・構築されてきた経緯があり、システムの構成要素(ルーター、スイッチ類)は自立的に勝手に動く。文字通り網の目のようなネットワークを張り巡らし、網の継目(Node)にインテリジェントな機器をおき、ネットワークに流れてくるパケットの行く先を各Nodeが判断しながらバケツリレーのように隣のNodeにパケットを渡していくことで成り立っている。
時には送り手が送り出したパケットが消失(ロスト)することもあるが、消失したらもう一度パケットを送りなおせばいいじゃない、とやや達観しているところがあって、おかげでパケットの管理にあまり余計な手間隙をかけない。シンプルだがややプリミティブで知性に欠けるネットワークではある。だが、このシンプルさのおかげで機器のコストが下がったのも事実だろう。そのおかげで高速なインターネットを安価に利用できるようになり、さらにこのネットワークを使った様々なアプリケーションが花開き、壮大なネットの世界を作り上げた。このように、IPネットワークの世界は、分散、オープンを基本思想し、エラーの発生を前提に作り上げられて発展してきた。
これに対してNGNは、IPをベースにしながらも、通信の品質を保証することを前提にしている。例えば、映像通信や電話通信等の利用者は、信号の流れが遅くなって映像や音声が乱れたら困るから、通信の品質はきちんと確保しなければだめだ、そのためにしっかり管理してくれ、と考える人もいるだろう。これはこれで理解できる。
そこでNGNには通信の品質を管理する「局所」が存在する。技術的にはSIPサーバーというらしい。その局所が一箇所なのか複数あるのは私には定かではないが、通信の品質を保証するためにはネットワークの構成要素はこの局所の管理下におかれなければならない。つまり、NGNは本質的にクローズドな世界にならざるを得ないのだ。情報の発信側がNGNを使っていても、受信側がNGNに入っていなければNGNの存在意義である「品質の保証」は果たせない。
ここで、はたと疑問がわいてくる。NGNとインターネットはどうかかわりあうのだろうか。
世界には既にインターネットが存在し、億単位の個人ユーザや企業ユーザが既にインターネットに接続している。インターネットの世界では各ユーザがオープンな思想に基づいて様々なタイプの機器をネットにつなげ、様々なデータをやりとりしている。データ、音声、ビデオ、どれもインターネットでやりとりされている。こうしたインターネットのオープンな世界と、NGNのクローズドな世界は本質的に相容れないのではないか。インターネットが圧倒的に巨大なネットワークとして存在している以上、後発のNGNがこれを置き換えるのも現実的とは思えない。そう考えると、NGNはインターネットの大多数の既存ユーザにはあまり意味がなさそうな気がしてくる。
私のイメージでは、iモードの「公式サイト」と「勝手サイト」のようなものかと考えている。つまり、NGNは公式サイトのようにきちんと料金を払ったユーザに対してクローズドだけれども高品質なサービスを提供する世界、一方のインターネットは勝手サイトのように何でもありの自由な世界、そしてこの公式サイトと勝手サイトの間には「ゲートウェイ」が存在して、相互乗り入れをある程度確保してユーザの利便性も確保しておく、というようなイメージだ。
こうした「公式サイト」としてのNGNがどの程度普及するのかよくわからない。通信の品質が死活問題だ、というようなユーザにはNGNは朗報だろう。日本全国に拠点を持つ大企業グループなどはまずは重要な顧客になるだろう。このほか、通信の品質を気にする人たち、例えばテレビ局や音楽、ラジオ業界が加わってくるとさらに大きな流れになるかもしれない。
しかし一方で大多数の個人ユーザや通信量の少ない企業ユーザはベストエフォートの安い回線を選びそうな気がする。「インターネットただ乗り論」が出てくるように、通信事業者の間では、ビデオや音楽ファイルといった大規模ファイルをやり取りするユーザから「正当な」料金を徴収したいという本音がありそうに思うが、そう簡単に個人ユーザが喜んで高い料金を払うとは思えない。
NGNは今年後半にサービスが始まるという話もあるが、何が始まるのどうもよくわからないし、NGNの盛り上がりは今のところ通信業界の外までは伝わってきてない気がする。今後、大きな流れとなるか、それとも単なる一技術で終わるか、重要な局面を迎えているのではないか。
もっと詳しく知りたい人のために、
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