Web進化論で有名な梅田望夫氏のサイトに「[コラム] 制度設計側が是正すべき一般投資家のリスク過重」(全文はこちら)というコラムがアップされました。ごもっともなご意見ですが、「株式公開前の関係者」であるベンチャーキャピタリストとしては「こちら側」の見解も述べておくべきかと思うので整理してみました。
まず、梅田氏の論点をまとめると、下記の2つに集約できると思います。
- 制度設計の過渡期の現象として、この仕組み(株式公開システム)全体の関係者が取るリスクと得るリターンのバランスが、株式公開前の関係者にやさしく、株式公開後の関係者に厳しくデザインされ過ぎている。株式公開前の関係者が「早すぎる公開」によって先にハイリターンを確定してしまい、「最大の難所」を乗り切るリスクを、公開以降に投資した一般投資家に負わせていることが最大の問題だ。
- これは、起業家のモラルによる解決を期待すべき問題ではなく、制度設計側の責任で是正すべき問題だ。日本の新興市場における株式公開基準を少し厳しく見直し、株式公開前の関係者と一般投資家の間のリスク・リターンのバランスをより正当なものに設計し直すべきだ。
この問題はいろいろな要素が含まれていると思いますが、私の意見はこうです。
- 株式公開後に「最大の難所」がくる場合もあるがそうでない場合もある。「最大の難所」がどのようなもので、どの段階の企業に訪れるのか判断するのは難しく、その判断を一般投資家が負わされている現状は確かに問題だ。
- しかしながら、ベンチャー企業が公開しやすい市場を作るというのも一方で重要な命題だ。公開しやすい市場と「最大の難所」の判断を両立させるには、株式公開後に一般投資家を支援する中立な立場のアドバイザーやアナリストが必要なのではないか。
加えて、言葉尻を捕らえるようだが”株式公開前の関係者が「早すぎる公開」によって先にハイリターンを確定しまう”というのは少々ひっかかりを覚えてしまう。確かに新興市場において公募価格が高すぎる例が見受けられるのも確かだが、2000年のバブル期に比べれば随分と公募価格が妥当な線に落ち着いてきているようにも思える。公募価格に対してIPO時の初値が上回るケースが圧倒的に多いのは、公募価格が需要に対して高すぎないから、という側面もあるのではないか(実例はこちら)。そうすると、”株式公開前の関係者がハイリターンを確定”したとしても、それは「不当な利益」ではなく「妥当な利益」であり、むしろIPO直後に株価が乱高下することによってそれこそ不当な価格がついてしまうことの方が問題ではないか、と考えている。もちろん、公募価格の価格決定プロセスについては曖昧模糊としているところもあるように見えるが、ブックビルディングによって公募価格決定前に投資家の意見を取り入れるシステムによって、いくらかでも公募価格を市場が公正と考える価格に近づけるようになっているのではないか。(ブックビルディングそのものが有効に機能していない、という考え方もあるかもしれませんが)。
個人的に問題だと思うのは、新興市場では機関投資家があまり積極的に動けないことだ。機関投資家は精緻なデータと知識・経験に基づき合理的な動きをする勢力だが、新興市場の小型株の場合には市場に流通している株式がそれ程多くないため彼らが入り込める余地が極めて限られるはずだ。さらに、これが重要だが大口投資家である機関投資家が動かないことで、株を売る側のアナリストも時間を割いて新興市場の株式を追いかけることが出来にくくなっていることだ。実際、ネット証券などに口座を持って東証1部銘柄と新興市場銘柄についてアナリストレポートがそれぞれどの程度出されているか調べて見ればわかるが、新興市場の株式にはそれほど多くのアナリストレポートが出されていない。こうした「アナリストが入りにくい構図」が新興市場株に関する情報や株価についてのコンセンサス形成を難しくし、ひいては限られた情報の中で一般投資家が「勘や思惑」を頼りに投資しているのが現状ではないか。これが最も危険な状態だと私は考えている。
新興市場に上場している株式についてコメントを出す中立的なアドバイザー/アナリストを設置する仕組みが必要だ、と考えている。
最近のコメント