ベンチャーキャピタルの仕事でつらいことの一つに「ダウン・ラウンド」がある。
欧米の技術系ベンチャー企業への投資は一般にシンジケーションを組んで投資するが、「ラウンド」とはそうしたシンジケーション投資の単位の意味で使う。例えば、シードステージの会社への投資であれば「シード・ラウンド」、VCが参加した最初の投資ラウンドを「シリーズA投資ラウンド」、VCによる2回目の投資ラウンドを「シリーズB投資ラウンド」、、、等と呼んでいる。
2000年以降のバブル崩壊の局面でよく耳にした言葉が「ダウン・ラウンド」だ。ダウン・ラウンドとは、過去に終了したラウンドよりも会社の価値が下がったラウンドのことを指す。例えば、シリーズAラウンド後の会社評価額が10億円だったとして、シリーズBラウンド前の評価額が5億円に下がってしまうような場合、シリーズBラウンドを「ダウン・ラウンド」と呼ぶのだ。
このダウンラウンドは投資家に重大な悪影響を及ぼす。先の例でシリーズAラウンドで投資した投資家の場合では、自分の投資資金がシリーズBの段階で半分に下がってしまうことになるからだ。通常、VCは投資した後で投資したベンチャー企業を一生懸命支援するわけだが、ダウン・ラウンドによってそうした努力が水泡に帰すばかりか、価値が下がってしまうくらいなら投資も何もしない方がよかったということになってしまうのだ。
そうした苦い経験をした投資家は、会社評価額が上下しやすいアーリーステージ企業への投資を躊躇しがちなので、市場全体で見るとアーリーステージ企業への投資資金が不足し、逆にレーターステージに資金が集中してしまう。2001年ぐらいから見られた傾向だが、バブル崩壊から立ち上がって徐々に明るさが見えた現在の欧米市場にあってもアーリーステージ企業への投資は未だ盛り上がってこないように見える。例えばこんな記事を紹介しよう。
要約すると、「小企業は投資を必要としているが市場が十分供給しているとは言えない。もっと公的資金を投入すべきだ」というところか。この場合の市場とはVC業界のことを指すと思うが、VC業界がシード投資に積極的になれない大きな理由が先のダウン・ラウンドなのだと思う。まだバブル崩壊の痛手から完全には回復してないのだ。
ただ、こうした逆境を潜り抜けた者だけが大成するとも言えそう。ITバブル時代に大企業だったMicrosoft, Sun, Oracle等はみな80年代に創業し90年前後の不況を乗り切ってきた企業だった。今の時代を耐え抜いた企業が次の10年を担うものと期待して、明日もまたがんばろうかと思う。
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