東証AIMに第1号銘柄が上場する見込みだ。栄えある第1号銘柄は、メビオファームという創薬ベンチャー。東証AIMはプロ向け市場として2009年に開設したものの、2年の長きに亘り上場案件がなかった。メビオファームという会社の内容については専門外なので評価できないが、ようやく上場企業が出てきたことを大いに歓迎したい。
とはいうものの、東証AIM開設以来なぜ2年も上場銘柄が出てこなかったか、栄えある1号銘柄のJ-Nomadが日系証券会社でなかったのはなぜか、改めて東証AIMの課題が浮き彫りになったのも事実だろう。
■J-Nomadは責任重くて割に合わない?
東証AIMに上場する企業は、「指定アドバイザー(J-Nomad)」の支援を要する。実績が少なく信用力の弱い企業は、通常は単独での上場など難しいわけだが、そうした企業であっても、指定アドバイザーの力を借りることで上場できる道を作り、新興市場を活性化と、ひいては日本のベンチャーを元気づけようと考えたのであろう。こうした指定アドバイザー制度の仕組みを導入したことは、信用力の低いベンチャーの株式公開に道を開いたという点で高く評価されるべきだ。
しかし、「投資の自己責任原則」を考えると話が込み入ってくる。
指定アドバイザーの支援を受けて上場した企業が、その後上場廃止になったり破綻した場合、その企業に投資した投資家は損害を被ることになる可能性が高いわけだが、そうした損害は果たして100%その投資家の自己責任なのだろうか。それとも「指定アドバイザー」も何らかの責めを負うべきなのだろうか。
株式投資は「自己責任」が原則だ。東証AIMであろうと他の市場であろうと、株式投資した企業が破綻したことでその株主=投資家に損害が発生するとしたら、それは投資家の責任であって他のだれの責任でもない。投資家が適切な投資判断を行い得るよう、情報開示の公正さを担保することが極めて重要なのだが、それが確保されていれば、投資するかどうかを決めるのは投資家自身であり、その結果についても責任がある。投資によって利益が発生すればそれは投資家が享受すべきものだし、損失が出ても同じように投資家はそれを甘受しなければならない。株式会社とはそういうシステムだ。
東証AIMに上場した企業であっても、仮にそれが破綻して投資家に損害が発生するとしたらそれは投資家自身の責任だ。情報開示が正しく行われている限り、指定アドバイザーが何らかの責めを負うべきものではなかろう。
とはいうものの、破綻企業にかかわった指定アドバイザーに対して、日本の投資家はどう反応するであろうか。投資の自己責任論が脇に追いやられ、「破綻するような企業を支援する指定アドバイザーが悪い」というような議論が出てきたりしないか。こうした「紹介者責任」ともいうべき習慣があることで、誰も紹介者になろうとせず、上場のチャンスを得られずにいるベンチャーがあるとしたら不幸なことだ。
東証AIMは日本の証券取引所であるわけで、当然のことながら日本の証券会社の奮起が期待されたであろうが、上記のような紹介者責任を問われるとしたら証券会社も動きづらいことだろう。1号案件の指定アドバイザーが日系証券会社ではなく海外勢であったのは、そんな背景と無縁でないのではなかろうか。
■機関投資家の参加は期待薄?
東証AIMへの上場は、他の市場に比べて成熟度が低い段階でも公開可能であることから、東証AIMでは「プロ投資家」のみの参加を前提にしている。プロ投資家であれば、上記のような紹介者責任に絡む話は無縁だということなのだろう。
そのプロ投資家とは誰なのかと言うと、東証の表現を借りれば、下記の者のようだ。
TOKYO AIMは、金融商品取引法の改正により導入されたプロ向け市場制度に基づく市場です。
制度上、TOKYO AIMにおいて直接買付けが可能な投資家は、特定投資家及び非居住者に限られます。一般投資家は取引所に直接買注文を入れることはできず、投資信託等を通じて、市場に参加することとなります。(何らかの理由でTOKYO AIMの上場株式を保有している一般投資家がTOKYO AIMを通じて売却することは可能です。)
特定投資家の定義は、金融商品取引法上、以下のとおりです。
- 適格機関投資家(金融機関など)
- 上場会社
- 資本金5億円以上の株式会社
- 政府・日本銀行
- 地方公共団体
「みなし」特定投資家(証券会社への申出、確認が必要)
- 上記以外の株式会社
- 3億円以上の金融資産及び純資産を持ち、金融商品について1年以上の取引経験を有する個人
ざっくり言えば、プロ投資家とは、機関投資家や大会社、あるいは証券会社に申出・確認した人のようだ。ちなみに非居住者であれば無条件に取引に参加できるところが面白い。非居住者で東証AIMの株を買うような人はプロしかいまい、ということか、、、
では、本当に東証AIMにプロ投資家は入ってくるであろうか。
日本の既存の新興市場(東証マザーズ、大証ヘラクレス等)の主要プレーヤーは個人投資家のようで、機関投資家の影は薄い。既存新興市場よりもさらに小規模な会社でも公開できる東証AIMにプロ投資家の資金を呼び込むことは可能だろうか?
■グロースファンドの出番では?
東証AIMの位置づけや狙いが何かによるが、それが「既に会計上の業績を実現しており今後も成長を見込める企業」ではなく、「まだ会計上の業績を実現していないが今後の成長を見込める企業」に対して資金調達の道を開いたものだと考えるとわかりやすい。東証AIMは東証1部、2部やマザーズと言った他の市場よりも早い段階での株式公開が可能な市場だということになる。(この考え方が間違っているとしたら、どなたが適切な考え方をご教示ください)
そうした早い段階の企業に投資する投資家は、通常の上場企業への投資とは別の知見が必要になるはずだ。生損保や銀行・証券といったところで上場株に投資している方々のノウハウとは少々違ってくるのではないか。過去の会計情報はあまり役に立たないだろうし、ましてやPERやPBRを見て株価が高いの安いのという世界ではない。
これって、専門性を持ったファンド、たぶんグロースファンドのようなものの出番ではないか?
東証AIMに上場する企業に投資し、何年後かに本則市場に上場する際に売却するような収益モデルが考えられる。日本のVCには資金を持て余しているファンドもありそうだ。あるいは新規分野への参入を考えたいファンドもあろう。そうした諸氏にとって、東証AIM上場企業に投資するファンドというのは一考の価値があるのではないか。東証AIMは「プレIPO」市場だと割り切り、東証AIMに求められるノウハウに長けたプレーヤーの参加を促すという考え方があってもいい。
グロースファンドによる東証AIM活性化、そんな考えはいかがであろうか。
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