Intelが組込Linux大手のWind River Systems社を買収するらしい。買収額はUS$884M(約880億円)、今年夏に完了させると報じられた。
Wind River Systems社は組込OSの世界では老舗中の老舗で、主力製品であるVxWorksは業界内でも信頼性の高いOSとして名前が知られている。
IntelがWind River Systemsを買収する意味は下記の点にありそうだ。
- デジタル機器市場、携帯電話市場への進出
- 半導体(ハードウェア)とOS(ソフトウェア)の統合もしくは最適化
ネットブックのような低価格PCに搭載されて大ヒット中の"Atom"チップに見られるように、Intelは軽量・低価格品の市場を狙っているように見えるが、今回の買収はこうした路線をさらに押し進め、スマートフォンのような携帯型デバイスに進出しようとしているものだと思われる。これらはWind River社のコメント(下記に引用)からも伺える。
Wind River Systemsによれば、今回の買収は、「プロセッサおよびソフトウェア分野において、従来のPCおよびサーバ市場セグメントの枠組みを越えて、組み込みシステムやモバイルハンドヘルドデバイスへと進出することを狙う、Intelの戦略」に適合するものとなっているという。
携帯電話のような組込みの世界では、汎用プロセッサが使われることはあまりなかった。組込み機器、特に携帯型のデジタル機器では電池容量が限られているため、ギリギリまで機能を絞り込んで少しでもバッテリーが長持ちするように設計する。そのため、汎用的な半導体ではなく、携帯のモデル毎に最適な半導体をオーダーメードで設計・製造するのが一般的だった。こうした半導体を一般に「カスタム」とか「カスタムチップ」とか呼ぶが、この市場ではオーダーメードでの設計に適した部品(IP)、ツール(EDA)、人材(半導体企業)、ノウハウといった分野で多くの企業が事業を展開してきた。
Intelが得意とする汎用プロセッサは、こうしたカスタムとは対極のものだ。各モデル毎に機能を最適化するといったようなことはせず、汎用的な機能を高速・安価で供給しようと考える。限られたバッテリー容量しかないデジタル機器に使えるかどうか微妙だが、Atomの実績を見れば、PCよりも小型の機器に最適化されたチップというのもありえない話ではないのかも知れない。
こうした組込み向けの汎用チップが安価に供給されるとしたら、組込み分野の業界構造を大きく変えそうだ。組込み分野のCPUコアを供給してきたARM、DSP最大手のTI、さらにカスタムチップを開発して収益を上げてきた数々の半導体企業(特に日本勢)にとっては大きな脅威になるかもしれない。
ところで、今回の買収の価格はUS$884Mとのことだが、PERが86倍、PSRが2.5倍と決して安くはない。昨今の市場環境を考えれば、かなりの高額だと言える。M&A市場に与えるインパクトという意味でもこのDealは注目だ。
最近のコメント