ソニーがシャープから液晶パネルの供給を受けるようだ。伝統的に自前主義が強かった日系電機業界にあっては大胆な戦略だ。
最近のシャープは水平分業に大きく踏み出しているように見える。日経BPの記事を引用させてもらうと、
... シャープは,2007年9月20日にPDP陣営の一角であるパイオニアと業務提携および資本提携することに基本合意(Tech-On!関連記事1),12月21日には東芝との間で液晶パネルおよび半導体の相互供給において業務提携することを発表した(Tech-On!関連記事2)。2008年2月6日には,液晶パネルと共通の薄膜技術を活用できる薄膜太陽電池の分野において,東京エレクトロンと共同で製造装置開発の合弁会社を設立した(Tech-On!関連記事3)。そして2月23日,ソニーがシャープからテレビ用の液晶パネルを調達する方向で最終調整に入ったと,日本経済新聞が報じた。
このように、シャープは今回のソニーだけでなく、パイオニアや東芝など業界の他の有力企業とも提携を結ぶことで、「液晶パネルの製造」分野の規模を拡大しているようだ。この分野で業界トップの地位を獲得し維持することを狙っているのだろう。大阪・堺に液晶パネルの大規模な新工場を建設するなど、製造の力を強化するための打ち手も筋が通っている。液晶パネルと並んで太陽電池の製造の分野でもシャープは強いが、東京エレクトロンとの提携はやはり「製造」メーカーとしての地位を維持するためのものだろう。このようにシャープの戦略は、「製造」という機能を強くし、水平方向に事業規模を拡大する戦略だ。
一方、ソニーにとって「自前の工場を持つこと」と「自社ブランド製品を出荷すること」のどちらが重要かと言えば、答えは恐らく後者。日本ではソニーのブランド力が落ちている感があるが、アメリカでは引き続きソニーブランドの地位は高く、重要な経営資源だ。こうした状況では、垂直方向に注力し最終製品で勝負するのが得策で、そのためには製造能力の一部を外部に任せる道をも厭わないということなのだろう。垂直「統合」とは言いづらいから、垂直「方向」への注力というぐらいの表現が適切かもしれない。
ソニーは液晶パネルの分野で既にSamsungと組んでいるから、大きな変更ではないかもしれない。ただ、最終製品で直接競合している企業と組んだという意味ではやはり大きな決定だったと思う。
日系企業が自前主義だったのは、部品から最終製品まですべて自前で一貫して供給することが利益の拡大につながると考えられているからだと思う。実際、このモデルがうまく機能する状況もあるのだろう。しかし、競争が激しくなって利幅が薄くなると、Value Chainのどこで勝負すべきか、精度の高い戦略が求められよう。まさに液晶パネル業界は価格下落が著しい業界で、利益を確保するのが難しくなっていると言われている。そうした業界では今回の例のように業界の再編が進み、プレーヤーの寡占化が避けられないが、再編に際して垂直に注力してブランドを取るか、水平に注力して製造力を取るかで企業の明暗が分かれよう。
再編が起こりそうな業界にあってはソニーとシャープの選択はそれぞれ参考になりそうだ。ITサービス業しかり、ソフトウェア業しかり、ネット業しかり、、、である。
(後日談:2008年2月26日の日経報道によると、ソニーはシャープの工場に資金提供するらしい。両者は、より密な関係を作るということのようだ。)
参考: 垂直か水平か http://vc.typepad.jp/weblog/2006/06/post_0ed0.html
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