これまで長年に渡って欧米のベンチャー企業とかかわってきたが、最近は日本のベンチャー企業さんとも関わることが増えてきた。日本と彼岸のベンチャー企業の様子を見比べていると、似ているところや違っているところがいろいろわかって面白い。中には、「これでいいのだろうか」と感じることがいくかある。ベンチャー企業の融資もその一つだ。
どんな企業でも事業の元手となる資金は必要で、融資はその資金を提供する重要な手段だ。ベンチャー企業にももちろん融資は必要だ。(ちなみに、欧米の技術開発系ベンチャー企業は、少なくとも創業期に融資を受けることはない)
問題だと思うのは、日本では「身の丈」を超える借入をしているベンチャー企業が少なからず存在することだ。身の丈とはつまり事業規模とか年商と置き換えると理解しやすいと思うが、事業の収益を通じて返済出来る限度を超えて、いわば背伸びして借入をしている企業が見受けられることだ。もちろんベンチャー企業たるもの、資金需要も旺盛だから、借りれるうちに目一杯借りておきたいという気持ちもよくわかる。ベンチャーは大きく成長することを目指していくわけで、貸す方もそうした成長性を見込んで貸すわけだ。でも、必ずしも事業が予定どおりに成長していかないことがある。しかも、しばしば起こる。
銀行ではこうしたリスクに対処するため、融資の際に社長の個人資産を担保に入れてもらうことがよく行われる。身内を保証人に入れさせることもありうるだろう。担保や保証がある限り、事業がうまく行こうが行くまいがベンチャー経営者は会社を容易にたたむことは出来ない。大きな負債が残っていると会社をたたんでも負債が残りかねず、そうした場合、経営者の個人資産や親族の資産まで融資の返済として取り立てられかねない。だから、経営者は「会社を潰さない」ように死にものぐるいで頑張る。ある意味でこれが経営者のコミットメントにつながっているともいえるが、問題は、会社を潰さないことが圧倒的な第一優先順位となるため(もちろんこれは大事なことなのだが)、大きなリスクを取りづらく、将来のスコープが小さくなりがちだ。欧米諸国のベンチャー企業に比べて日本のベンチャー企業が小粒な感を免れない(失礼な言い方ですみません)のは、こうした融資に伴う担保や保証が足枷になっているのではないかと考えている。
思うに、ベンチャー事業とは本来スクラップ・アンド・ビルドでいいのではいか。失敗することがありえるからベンチャーと呼ぶわけだ。志と知力を備えた起業家が失敗を恐れずに新しい領域を開拓する。失敗したら撤退して機をうかがい再起を期す。そうしたダイナミックな人の動きがベンチャーの本質ではないかと考える。そして、今の日本に必要なのは、そうしたダイナミックな人の流れを作り出すことだと思う。しかし、ベンチャーを支援するはずの融資が足枷になってダイナミックな動きが出来ないとしたらどうしたことか。
もちろん軽率に失敗しもらっては困る。でも、人間は失敗から学ぶことも多いはず。アメリカでは失敗は必ずしもマイナスではないと聞く。事業がうまくいかず、失敗であることが明白で、撤退したほうが合理的な場合には、一旦撤退することがあっても良いのではないか。つまり会社を解散し、再び新たな会社を作り直すという道が社会的に認知されてもいいはずだ。そうした「失敗しやすい環境」を作っていくことがベンチャー業界の活性化につながるのではないかと思う。
ベンチャー企業の方からは「そんなこと言ってもVCが投資してくれないんだから銀行に融資をお願いするしかないでしょう」というような声が聞こえてくるようだ。ごもっともな意見で、恐らく創業期にあるベンチャー企業へ創業資金や投資ノウハウ、経営支援を提供するファンクションが必要だ。インキュベーション的な機能がもっと必要だと思う。
やや話がタイトルの主題からそれたが、私が言いたいのは、ベンチャー企業の経営者の方々はもっと財務の重要性を理解しましょう、ということだ。「資本コスト」とか「企業価値算定方法(特にDCF法: Discounted Cash Flow)」の考え方は企業経営に必須なので、是非理解されることをお勧めしたい。キャッシュフローという言葉が一時流行って久しいが、キャッシュフローが理解できるのであればこれらは難しくない。こうした財務の概念は四則演算が出来る人、つまり誰でも理解できるはずだ。多少数列の概念も入ってくるが、あまり気にすることは無い。
こうした財務の基本的な概念は経営者に必須のリテラシーだと私は思う。こうした概念を理解することで、「身の丈にあった借入の額」の意味を把握しやすくなると思う。
加えて、有能なアドバイザーを見つけよう、と言いたい。
融資や増資には経験やテクニックが必要なところもあるので、ベンチャー企業の個々の状況を踏まえて財務戦略をきちんとアドバイスしてくれる有能なアドバイザーをもっと活用する場があってもいいと思う。毎年100社以上のベンチャー企業が株式公開しているわけで、そうした会社の財務を経験した人も相当数いるはずだ。ベンチャーの経営者の方々は「財務はよくわからない」などといわず、早めに有能なアドバイザーを探すべきだと思う。
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