ベンチャー企業のファイナンスにおいて優先株を使うとき、忘れてはならない原則がある。
- 優先株は他の株よりも優先的に利益にありつける
- 古い優先株は新しい優先株よりも劣後する
1は自明でしょう。優先株は普通株などの他の株式に比べて配当や分配が多いとか希薄化防止条項等の特殊な権利を受けられるといったメリットがある。VECが優先株のメリットをまとめているので興味のある人は参考にしてみるのもいいだろう。
しかし、2についてはまだあまり日本では知られていないようだ。Aという優先株が既にあったとして、その会社が新たにBという優先株を発行する場合、通常新しいB優先株はA優先株よりも優先的に権利を受けられ、その結果A優先株はB優先株に劣後する、ということだ。例えば会社がM&A等で売りに出された場合、A優先株の株主よりもB優先株の株主の方が優先的に分配を受けられるということを意味する。まぁここまではそういうものかと納得もしやすいところだ。
問題は、会社の資金繰りが逼迫している場合だ。このような場合には四の五の言ってないで急いで資金を投入しないと会社がつぶれてしまう。だから、株式の発行会社の立場は弱く、逆に投資家の立場が強くなりがちで、株式の発行条件を決める際に投資家の意向を全面的に受け入れざるを得なくなる。いろいろなケースがありえるが、一例を挙げるとこんなことが起こりえる。
- 株価が下がる(ダウンラウンド)。その結果、古い株式を持っている人の持分は急速に低下する。
- 新しい優先株に極めて多くの特典が与えられる。その会社が成功しても新しい優先株が多くの利益が配分され、古い優先株にはそれ程利益が配分されない。
- そのファイナンスが発行会社への救済措置的な意味合いが強い場合、そのファイナンスに参加しない投資家が保有する優先株には懲罰的な措置が取られる。その結果、古い優先株が普通株に転換されたり、極端な場合には償却される(株券の権利が消滅する)。
どれも海外VC市場において2000年以降にしばしば起こってきたことだ。上記のような厳しいレッスンを経てもなお優先株を使うメリットがあったのだろう、海外VC市場上記のような課題を克服する手段について一定の定石が出来ているように思われる。
日本でもこれから優先株(種類株)が増えていくように思うが、優先株を扱う上では上記のような数々の課題を乗り越えていかなければならない。研究開発型のベンチャーを多く育てるには必要なプロセスではないかと考えている。
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