ベンチャー企業がVCから出資を受けるとき、ベンチャーの経営陣はVCに対して事業計画の達成をコミットメントしなければならない。VCがベンチャー企業に対して無担保で資金を提供しようと思うのは、ひとえにベンチャー経営陣が将来をコミットしてくれるからだ。経営陣のコミットに基づいて将来への期待が生まれ、投資しようという意欲が生まれる。もちろん投資した後でコミットメントどおりに事態が運ばず事業が難航するのはよくあることで、そのあたりの事情もVCは良くわかっている。「コミットメント=確約」ではないのだろう。しかしながら、VCがベンチャー企業を信じて出資することが出来るのは、ひとえにこのコミットメントがあるからで、これがないと何も始まらないのだと思う。
一方、VCもベンチャー企業に対してコミットメントが求められる場面がある。出資したベンチャー企業の事業が難航したとき、VCが財務的・事業的にいかに支援してくれるか、出資を受けるベンチャー企業からしたら大きな問題だ。VCの支援が質・量とも高い水準にあれば、やがてそうした支援が業界内で評判を呼び、そのVCの将来の事業拡大に貢献するといった仕組みがあるので、どこのVCも自分で手がけた案件は極力支援するものだ。
ところがVCの後ろにいる機関投資家が絡んでくると話が複雑になる。VCファンドに出資している機関投資家達の多くは金銭リターンを得るのが目的のため、損失を出さないようVCに対してプレッシャーをかけてくる。目の前で困っているベンチャー企業がいても、VCとしてその企業を財務的に支援することがVCファンドの損失を拡大されることにつながりかねない場合があって、機関投資家の顔を考えると財務支援に二の足を踏むことがしばしば起こる。
私が最近取り組んできた案件もそんな苦労話だ。主要投資家が5社、投資期間は概ね5年におよび、出資を受けたベンチャー企業はまだ黒字化していない。苦労している案件だ。先行きも茨の道が続きそうだ。投資家が追加で資金提供しないと遠からずこの会社は潰れてしまう。でも投資家のうち3社はファンドから出資しているため機関投資家の顔を考えると簡単に追加出資に合意することは出来ない。1社でも弱気なことを言い出すととたんに他の投資家も腰が引けてくる。神経が磨り減るような協議を重ねたが、なかなかまとまらず時間だけが過ぎていく。
結局のところ、この案件では創業期から支援していた投資家が単独でこのベンチャーを支援することで話がまとまった。太っ腹で気概のある投資家だ。素直に賞賛したい。でもそこに至るまでには投資家同士で喧々諤々の言い争いがあった。追加出資に参加するほうもしないほうも何とも後味の悪いものである。
投資家のコミットメントとは何なのか、改めて考えさせられる。
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