今回は少々大胆な仮説を立ててみた。
「日本のベンチャー投資におけるバリュエーション(株価)は低い?」
ここ1~2年の間に日本で株式公開したベンチャー企業の例を見る限り、それら企業が未公開だった段階で行われた投資ラウンド時のバリュエーションが低い例が見受けられる。何に対して低いかというと、欧米における同じような事業構造や成長率を持つ企業のバリュエーションに対して低い、という意味だ。バリュエーションはケースバイケースであり、一言で全体感を表現するのは難しいが、「低いケースが目に付く」というのが妥当な書き方だろう。本当に低いのだろうか?
たとえば、昨年マザーズに上場したIT系企業A社の場合、売上高成長率100%以上、利益率10%程度、公開時のPER70倍程度、PSR4倍程度であったが、未公開の段階で行われたファイナンスではPER10倍以下、PSR0.4倍以下、というような例がある。未公開の段階での投資にはリスクがあるとは言え、この企業に未公開の段階で投資した投資家は、かなり安い価格で投資したようだ。似たようなケースが複数認められる。
ここ1~2年の間に株式公開した企業のバリュエーションが低く抑えられてきたのは、まず時代背景が影響しているだろう。最近公開した企業が掻い潜って来た2000~2003年の日本ベンチャー投資市場は苦しい時期だったはずで、どちらかと言えば投資家サイドの力が強く、バリュエーションが低めに抑えられたのは理解に難くない。しかし、そうした時代背景だけにとどまらず、普通株を使うことによるダウンサイドリスクを投資家側が嫌い、優先株を使う場合よりもバリュエーションが低く抑えられ易い構造にあるのではないかと考えている。
先のエントリーで、日本のベンチャー投資では普通株が主流で、株式種類に関する限り日本の投資家の多くは欧米の投資家に比べて不利な条件で投資していると書いたが、その株式種類での劣勢を、バリュエーションを低めに誘導することで補っていたのではないだろうか?優先株やそれに付随する諸々の契約条件を駆使することにより将来発生するであろう様々なリスク(価格低下リスク、倒産リスク、など)に前向きに対処しようというのが欧米流のVC投資術だとしたら、日本でのベンチャー投資では株式種類や契約条件面はいたってシンプルに済ませて投資家には何らメリットを与えない代わりに、投資時点の価格だけは投資家に有利になるよう低めに設定する方向に力が働いたのではないかと思うのだ。まとめると、私の仮説は下記のようになる。
欧米流VC投資 = Fair Valueでの投資 + ガチガチに権利を守られた株券
日本流VC投資 = Under Valueでの投資 + ごく一般的な権利しかない持たない株券
これは私が勝手に立てた個人的な仮説だが、少なくともいくつかのケースには当てはまるように見えるので、日本のVC市場の特異性を示すかもしれないものとして興味深く思っている。
そうは言いながら、最近は日本のベンチャー投資市場も非常に盛り上がっているようでバリュエーションが上がり気味だとの噂が聞こえてくる。
「言うだけ番長」さんのコメントのように、優先株の使用が一般化している例もあるようだ。今後は「はるさん」コメントにあるように上場株式においてすら議決権に違いがある株式が出てくるのかも知れない。
今後の日本の未公開株式投資がどう発展していくか興味深く見守って行きたい。
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