"EXIT"というのはVC業界特有の言葉だが、株式公開なりM&Aなりで手持ちの未公開企業の株式を換金可能な公開株に変えて売却し、投資を終了させることを言う。このEXITこそがVCの売上の源泉となる極めて重要なイベントなのだ。
ベンチャー企業の株式公開に関する限り、現在の日本は世界的に極めて恵まれた状況にある。毎年100社以上のベンチャー企業が公開する市場はそれほど多くない。しかも驚くほど取引が活発で流動性が高い(少なくとも公開直後しばらくの間は)。日本のベンチャー企業の皆さん、日本の株式市場は世界的に見てもとても恵まれた状況にあります。
アメリカは日本よりももっとずっと厳しい状況にある。ネットバブル崩壊後、米国のベンチャー公開市場として機能していたNASDAQは2002年前後は完全にIPOがストップした。IPO件数はその後緩やかに上昇しながらも現時点ではまだまだ盛り上がりに欠けている。
いろいろな理由があるだろうが、まず第一に投資家がそれ程IPOには熱狂していないように見える。加えて、IPOを引き受ける証券会社の要求がとても厳しいようだ。たとえば、○○業界でIPOするには、売上高○○○ドル、利益○○ドル、利益率○○%、といった具合のコンセンサスがあって、このコンセンサスをクリアしないと公開にたどり着けない。このコンセンサスがざっくり言って日本の数倍以上あるのだ。
さらに、SOX法が大きな影を落としている。SOX法の下では、CEOとCFOは様々な義務を負うが、たとえば会計報告書に虚偽や記載漏れがないことを保証しないとならず、虚偽があるとCEOとCFOは刑務所に入れられることになる。これに対処するため、米国で公開を目指すベンチャー企業は会計システムや内部統制システムを多大な手間隙をかけて作らないとならず、大きな負担になっている企業が少なくない。
これだけ厳しい状況にありながら、ベンチャー投資の総額は衰えていない。EXITもどっこい頑張っている。このあたりがアメリカVC業界の底の深さなのだろう。米国でのIPOが難しいのでM&Aを多用してなんだかんだいってEXITさせたり、アメリカ以外の市場(イギリスなど)での公開を実現してしまったり(英語圏の強み!)、あるいはアメリカへの投資に見切りをつけて中国やインド、イスラエル、ロシアなどへ投資をシフトさせたりしている。そうしたダイナミックさがアメリカの真骨頂なんだと思う。
アメリカ人の間で日本のVC業界が話題に上ることは驚くほど少ないが、僕の目から見ればきちんと情報が伝えられていないだけで、納得のいく説明が出来れば再び彼らが日本に目を向ける日が繰るのではないか。実際、アメリカ発の再生ファンドやバイアウトファンドなどはうまく日本に上陸しているように見える。今後、この動きがEXITが好調な日本のVC市場に再び向けられる日が来るかもしれない。
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