ベンチャーキャピタルをやってるといろいろな企業の悩みが持ち込まれてくるのだが、今週はこんな話があった。
- 米国のベンチャー企業が日系大手企業に技術の一部をライセンスしようとしており、ほぼ合意できる状態までこぎつけた。
- しかし、そのベンチャー企業の取締役会は、このライセンス契約が労多くして実り少ないこともあってこの商談を撤回。代わりにその会社が近いうちに発売する予定の半導体商品を買ってくれと交渉することになった。
- 日系大手企業は突然の方針転換にびっくり仰天。既にプロジェクトが動き始めていることもあり大混乱に陥り、、、、
と、ここまで来て僕のところに話が持ち込まれ、ライセンス契約を撤回した取締役(僕の知り合い)にかけあって方針を元に戻してくれないかと懇願されたわけです。この手の話は珍しい話ではなく、アメリカ企業ではしばしば起こるような気がするのは僕だけでしょうか。
恐らくこのベンチャー企業の取締役会で「儲からない事業はやめて儲かる事業だけに集中しなさい」というお達しが下ったのだと思う。いい意味で言えば、この会社の取締役会はとても合理的な判断をしており、スピーディで、ビジネスの局面の変化に臨機応変に対応していると言えなくもない。これがアメリカのダイナミズムなのでしょう。でも日本人の視点から見ると、白黒はっきりしないあいまいな部分に潜む様々な可能性をばっさり切り捨てることで、何か大きな損をしているような気がするのである(まぁ、そうしたあいまいさが日本人の弱点になるのかも知れないが)。実際、この日系企業は、この商談が上手くいけば、将来さらに大規模発注する腹積もりだったようであり、そうした意図がどこまでベンチャー企業の取締役会に伝わっていたか疑問が残る。
国をまたがるいろいろな商談を橋渡ししてきたが、商談が上手くいかないパターンの多くは、お互いの意図をちきんと理解できていないことからくるような気がしてならない。言葉の問題に加えて、物事の考え方、それらに影響を与える文化的・思想的背景をきちんと理解することがますます重要に思えてきた。
ところで、当のベンチャー企業の取締役を勤める知り合い(当地では有名なVC)に事情を話したところ、「この件は取締役会の決定事項であり、一取締役としてはどうにも出来ない。ましてや微妙な状況だからあまり関わりたくない」と返事が来た。気持ちはわからなくはない。株主が事業に首をつっこんだ挙句、その事業が失敗でもしようものなら、その株主は他の株主から訴えられかねないのである。ましてやここはアメリカ。そのくらいベンチャー企業の取締役会というのは緊張を強いられるのだ。
でも、このVCは当地でも一流と認められた有名なところだよ。おいおい、あなた達の出番じゃないの? と言いたいのだが、どうやらすべてが奇麗事ですませられるわけではなさそうだ。ビジネスというのはかくも難しいものか。
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